あらゆる分野や市場で活用が進められているIoT(モノのインターネット)。なかでも幅広い効果が期待できるとされているのが、工場などの製造現場です。さまざまな機器や設備などをIoT化してデータを収集・活用することで、生産体制を最適化できるとして注目されています。

しかし、製造業とひと口にいっても、製品や規模などは多種多様。すでに導入されている機器やシステムを刷新することは容易なことではありません。「一部の設備から始めよう」と導入したものの、「データをうまく活用できていない」という企業も多くあるでしょう。

本記事では、工場においてIoT活用が進まない原因を考えながら、データ活用に向けてどのような課題があるのかお話しします。

 

IoT化で効果を得るには「データの活用」が不可欠

モノづくりの現場において求められる「生産性の向上」。IoTの導入により、コストや人員配置などを最適化することは、利益を確保するための課題の1つです。しかし、製造業にとって最大の目標といえるのは、「市場において価値のあるものを作ること」です。たとえ生産性が向上しても、完成した製品が売れなければ本当の成功とはいえません。

そこで必要となるのが、「モノ」からデータを収集できるIoTの活用です。工場内にあるあらゆる設備やセンターが生成するデータを収集して分析・活用することで、単に「良いモノをつくる」だけに収まらず、「付加価値のあるモノ」として市場で勝負できるようになります。

また、多種多様な消費者ニーズに対応するためには、新たな価値創造を目的としたIoTデータの活用をはじめ、変種変量生産・多品種少量生産など状況に応じて対応できる、高効率の生産モデル設計も不可欠です。データの取得だけで終わってしまわず、「IoTデータをどのように活用するか」を考えることが大切といえるでしょう。

 

製造業のほとんどがIoTデータを「活用できていない」

政府が発表した「2019年版ものづくり白書」では、国内の製造業において、製造工程で収集したデータの活用状況が報告されています。

2018年時点では、「製造工程でデータ収集に取り組んでいるか」という質問に対して、58.0%が「はい」と半数以上が回答しています。しかし、「データを実際に役立てているか」という調査では21.8%と、半分にも満たない結果となっています。

さらに、収集したデータについて「個別工程の機械の稼働状況を見える化している」と回答した企業は21.8%であるのに対し、「顧客とのやり取りやマーケティングに役立てている」と回答した企業は、全体の3.9%とごくわずかであることが分かっています。

「見える化」まで至っている企業は少なからずあるものの、生産現場やマーケティングなどに実用化できている製造業はほとんどないという現状が明らかになりました。

(出典:経済産業省/厚生労働省/文部科学省「2019年版 ものづくり白書」)

 

IoTデータ活用が進まない3つの課題と解決策

工場のIoTデータ活用が進まない理由には、いくつかの課題が考えられます。

 

1.予算と人員リソースが不足している

IoT導入にあたり、「まずは一部の生産ラインや個別装置から始めたい」と考える企業も少なくないでしょう。作業の自動化・省力化を図るためには効果的といえるかもしれませんが、IoTデータを活用して分析を行ったり、生産設計・商品開発などに役立てるためには、工場さらには企業全体でデータを一元管理する必要があります。

しかし、十分な予算を確保することが難しい中小企業では、工場や企業全体の設備・システムをすべてIoT化することは容易なことではありません。データの分析を行う人員を用意できず、データ活用にまで手が回らないといった工場もあるでしょう。

こうした課題に対してできることは、一部の装置や生産ラインでIoT活用を考えるのではなく、企業全体で一貫した導入プラン(予算など)を考えること。その際、IoTによってどのデータを収集するべきか、具体的に計画しておくことが大切です。

 

2.ネットワーク基盤の再構築が難しい

IoTデータを活用するには、データ連携を実現できるかが重要な課題となります。工場内のIoT機器から生み出される情報だけでなく、生産情報や品質管理などのあらゆる情報を一元管理する必要があるため、現場にある従来のネットワークでは不十分といえるでしょう。「制御システムなどを管理するOT部門」や「情報システムを管理するIT部門」など、あらゆる部門と連携したネットワーク構築が不可欠です。

しかし、工場内には異なるシステムやIoT機器が存在しているため、性能面の問題からシステムの連携ができず、ネットワーク基盤の構築が困難であることが課題の1つとなっています。

そこで近年注目されているのが「IoTプラットフォーム」の活用です。
IoTプラットフォームとは、IoT活用に必要なネットワーク基盤、ソフトウェア、クラウド、デバイス管理などを組み合わせた統合システムサービスのことで、提供会社によってその機能やサービスは異なります。自社でネットワーク構築が困難な場合は、導入メリットや必要な機能を検討したうえで活用しましょう。

 

3.セキュリティ対策が十分でない

あらゆる機器や設備、センサーを外部のネットワークでつなげるということは、当然ながらセキュリティのリスクが発生します。IT機器と同様、工場内の設備にもセキュリティ対策をすることが不可欠なのですが、うまく対策ができないケースも少なくありません。

というのも、工場内のIoTデバイスや制御機器は、PCなどのIT機器とは異なり、性能面からウイルス対策ソフトをインストールできないものが存在してしています。

解決策としては、デバイスからネットワークへの通信間にゲートウェイを設置したり、通信データの暗号化、ID/パスワードを使った認証、アクセス制御などの対策が挙げられます。既存のITシステムと同様、工場内のネットワークにおいても一元的にセキュリティを管理できる仕組みづくりが大切です。

 

IoT活用で目指すべきこととは

IoTを導入する製造業の多くは、作業の自動化・省力化を目的としてIoTを活用しているケースが多くあります。しかし、IoT活用の本来の目的は、あらゆるIoT機器から生み出されるビッグデータを収集・分析し、そのデータを活用して企業戦略を練ったり、新たな価値を創造することにあります。IoTを導入してやみくもにデータを収集するだけでなく、「どのようなデータが必要なのか」改善したい課題に応じて収集・分析を行いましょう。

IoTデータを最大限に活用することで、現場力の工場をはじめ、変わりゆくニーズに柔軟に対応できる競争力の向上を目指すことができるでしょう。自社工場においてIoT活用のノウハウが無い、データ分析・活用のための人員を用意できないという場合は、IoTプラットフォームなどを利用するのも手段の1つです。