近年、製造現場におけるIoT導入が急速に進んでいます。IoTという言葉もビジネスで広く使われるようになりましたが、「具体的に何が変わるのか分からない」という担当者様も多いのではないでしょうか。本記事では、製造現場のIoT化でどのようなメリットがあるのか、現場がどのように変わるのかについてお話しします。

 

IoTとは何か?

IoTとは、「Internet of Things」の頭文字をとってできた言葉のことで、「モノのインターネット」という意味があります。その最たる例として挙げられるのが、家電製品をスマートフォンからインターネット経由で操作できる技術です。

従来のインターネットといえば、PCなどのIT機器を経由して接続することがが当たり前でした。しかし、情報技術の発展により、これまで接続できなかった”モノ”がインターネットに繋がるようになったのです。これは私たちの生活に身近な家電製品だけではなく、モノづくりを担う製造業や工場現場においても重要な技術となっており、ビジネスシーンにも大きな変化を与えています。

 

なぜ製造業でIoT活用が求められるのか

製造現場へIoTを導入することで、一体何ができるようになるのでしょうか。そのメリットを知るにあたり、まずは製造現場におけるIoT導入の目的を理解しておく必要があります。

現在、多くの製造業では人手不足による生産性低下が顕著となっており、生産性向上に向けた取組みが待ったなしの状況といえます。こうした背景を受けて、製造業におけるIoT活用を国とともに進められているのです。

経済産業省がまとめた資料「中小ものづくり企業IoT等活用」では、IoT導入で目指す課題について以下を挙げています。

■生産性向上
・現場作業の改善
・工程管理
・品質確保
・事務作業効率化
・技術継承/脱属人化
・経営改善

■新商品・サービスの創出
・新商品/新サービスの創出
・付加価値の創出

IoTによってあらゆる視点から生産性向上を目指すだけでなく、新商品やサービス等の「付加価値の創出」にも大きな効果が期待されています。
(出典:経済産業省「中小ものづくり企業IoT等活用事例集」)

 

IoTを取り入れるとどう変わる?

実際に現場にIoTを導入すると、どのようなことができるのでしょうか。「IoTでできるようになること」や「IoTによるメリット」を見ていきましょう。

現状の把握が容易になる

工場内にある設備・機器にIoTを導入してインターネットに繋ぐことで、IoTを導入した“モノ”から「生産に関するデータ」を取得することができます。設備の稼働率をはじめ、製造にかかった時間、生産数などを「見える化」し、現場の状況をより正確に把握できるようになります。これにより、生産性の低い作業、高い作業を判別するなどの「分析・改善」が可能となり、現場の業務効率化や生産性向上に貢献します。

 

エネルギーを最適化できる

工場では、あらゆる設備を稼働するために、日々多くのエネルギーを使用しています。これらのエネルギーを無計画に使い続ければ、大量のエネルギー消費によってコストが圧迫されるでしょう。IoT化によって設備の稼働状況を把握できるようになれば、「電力が必要のないラインや時間帯に消費電力を下げる」といった節電対応ができるようになり、エネルギーコストの削減につながります。

 

情報が蓄積され、今後の生産活動に生かされる

IoT化した設備・機器から取得したIoTデータを蓄積することで「どの作業にどれくらいの時間がかかっているか」「一部のラインだけ生産性が落ちている」など、現場改善に向けた分析が可能になります。また、熟練技術者の技能やノウハウをデジタル化できるため、人員育成や技術継承にも活用できます。IoTによってさまざまなデータを蓄積することで、分析によるノウハウの構築や生産活動に役立てられるのです。

 

利便性が大幅に向上

工場内のあらゆる設備・機器をIoTによってインターネットへ繋ぐことで、これまで人間が手作業で行っていた「目視作業」「事務作業」などを効率化できます。例えば、生産ラインにIoTセンサーを設置して、不良品が無いか自動で検知するという方法があります。人間による目視作業が不要になり人手不足改善に役立つほか、品質向上、不良率の削減にも効果が期待できるでしょう。

また、IoT機器から取得したあらゆるデジタルデータは、PCやタブレットなどで管理することも可能です。製造情報の追跡や工程管理の際に「必要な情報をすぐに引き出せる」ようになります。手作業で行ってきた点検や日報などの事務作業も、PCやタブレット端末などから編集・管理できるため、わざわざファイルや書類を探したり、管理表に記入する必要はありません。現場の業務効率化、製造プロセスの最適化に大きく貢献するでしょう。

 

コストカットが見込める

製造現場をIoT化すれば、生産数をはじめ、在庫数や不良数、過去の注文状況などを数値化して把握することができます。これらのデータを分析することで、「最適な生産計画を自動化」「受発注の自動化で人的ミスを減らす」などの対応が可能です。製造コストを削減できるだけでなく、人的ミスによる不良率削減にも繋がるため、現場全体のコストダウンが期待できるでしょう。

また、製造工程や作業効率をリアルタイムで「見える化」できるため、「非生産的な作業工数を減らす」といった作業の効率化にも役立てられます。

 

安全性が確保できる

工場で一番重要なことは、安全性の確保ではないでしょうか。故障や大きなストップが起きた場合、生産性にも大きく影響してしまいます。製造設備にIoTセンサーを導入すれば、各設備の稼働状態を可視化して、故障などのトラブル予兆をリアルタイムかつ自動で検知できます。温度や振動数などによって故障リスクをすばやくキャッチすることで、品質向上・安定化にも繋がるでしょう。また、24時間365日の監視が可能となるほか、人間が監視するよりもより高精度で監視できるため、設備トラブルの削減。品質向上・安定化にも効果が期待できます。

 

製造現場におけるIoT導入の課題

IoTは製造現場の様々な問題を解決してくれます。今後さらに導入する企業が増加していくと予想できますが、注意すべき点もあります。

一番の課題といえるのが、コストです。IoT設備やネットワークシステムの構築が必要になるため、導入段階である程度の資金を準備しておく必要があります。自社に必要なIoT機器やツールを明確化して、必要な箇所からスモールスタートすることが第一歩といえるでしょう。

まずは、自社が抱える課題は何か考えてみましょう。「製品の精度にばらつきが出る」「人員が足りず生産が追い付かない」「複数の製造情報を管理するのが大変」など、課題に応じて必要なIoTを導入しなければ、最大限の効果は得られません。実際に作業に携わる従業員に、問題点や改善策をヒヤリングするというのも効果的です。

また、IoT機器やIoTを活用できるネットワークシステムを構築するには、専門のノウハウが必要です。やみくもに導入してコストを無駄にしないためにも、外部の専門企業に依頼するなどして計画的に導入を進めましょう。

 

IoTが進む製造現場の未来

IoT化が進んだ先にはどのような未来があるでしょうか。生産量や製造ラインの状況を正確に把握できるようになれば、データを自動的に収集し、適切な改善策を講ずることができます。人手不足の解消や業務効率化、競合に負けない付加価値の創出に向けて取り組みたいという企業は、それぞれの課題に応じて適切なIoTを検討してみてはいかがでしょうか。