近年、製造業が取り組むべき課題としてIoT(Internet of Things)が取り上げられます。確かに製造業の未来を見据えたときに、「モノのインターネット化」は避けらないものだといえるでしょう。しかし小規模製造業においては、その前提としてまず社内のIT化に注力すべきだと考えられます。その必要性や導入事例、そして今後の課題について解説します。 

小規模製造業におけるIT化

会社組織におけるIT化というとどのようなことが挙げられるでしょうか。一般的なオフィスでは当然のように活用されているExcelやWord等のOffice系ソフトや電子メール、給与・経理業務のパッケージソフトなどもIT化の実用例です。

その他、仕入れから販売までの情報管理を行なう基幹業務総合ソフト「ERP」、受発注業務などの企業間取引データを自動で行なえる「EDI」、そしてスケジュールや業務情報の共有・コミュニケーションツールとしてのグループウェアなども業務効率化や生産性向上のために欠かせないITツールとして導入されています。

しかし小規模製造業にフィーチャーしてみると、Office系ソフトや電子メール、経理ソフト等については導入率が高いものの、ERPやEDI、グループウェアの導入については未導入の会社が半数を占めます。

また導入率の高いITツールに関しても、十分に活用しているかどうかとなると、やはり半数程度にとどまるようです。多くの小規模製造業において、ITの利活用を高める余地があると考えられます。資金不足や人材不足が背景にあるケースが多く即応するのが難しいのも事実ですが、実現不可というわけではないはずです。

IT化の実例と効果

IT化することで得られる効果について、実例を取り上げて見ていきましょう。今後導入、活用する際のヒントになることもあるのではないでしょうか。

①IT活用で業務効率化・情報共有「三元ラセン管工業」

ベローズとフレキシブルチューブの設計・製造を行なう三元ラセン管工業では、顧客管理システムや文書検索システムを導入することで業務効率化を図りました。受注履歴や過去の図面等の情報をスピーディーに取り出すことで、時間の短縮に繋がります。 またグループウェアの活用で、社内のスケジュール共有も行なっています。情報共有は社内にとどまらず、社外に向けてWebサイトやブログ、SNSを利用して広く発信することで、安定した売上を確保しつつ、さらに社員の定着率向上や若手社員の確保にも繋がったということです。

②IT投資に力を入れて5年間で粗利益1.4倍に「グランド印刷」

シルクスクリーン印刷のグランド印刷では、訪問営業担当を置かずにネットや電話で受注するスタイルに転換することで、同じ社員数で14倍の顧客に対応することを実現しました。また、社内の情報共有にチャットを導入することで業務効率化を図りました。顧客管理、受注・納品管理、原価管、理営業担当別日報に至るまで、業務に関するあらゆる情報を一元化して即共有することで、効率アップや経営の見える化に繋がります。またデータをマーケティングに反映させやすくもなりました。5年間で粗利益が1.4倍にも上った背景には、このようなIT化が大きく影響したのは言うまでもありません。

③IoTを活用したスマートランドリーを開発「山本製作所」

クリーニング機器製造を行なう山本製作所は、広島県尾道市に本社工場を構えながら海外への販路を広げています。近年は特にコインランドリーや産業用洗濯機で売上を伸ばし、海外での売上も10%を占めるほどになりました。その成功を支えたのが、製品の付加価値を向上させることです。他社との連携でIoTを活用した「スマートランドリー」を開発するなど、積極的にモノのインターネット化に取り組んでいる様子が伺えます。当然IT・AI技術の導入にも注力していて、ロボットが担う工程を増やし工場の無人化を目指しています。ただこれは人員削減を目指すのが目的ではなく、売上向上など次なる目標を実現するために別の分野でヒトの力を活用するためだということです。

IT化を実現する際の課題

先の事例のように、IT化を促進することで業務効率化や収益アップ、ビジネスモデルチェンジなどが実現可能になります。では実際に小規模製造業においてITの導入・利活用を進める際にはどのような点が課題となるでしょうか。

IT化のネックとなる要因としては、導入コスト・導入効果の価値に対する理解不足・ITスキルを持つ人材不足などが挙げられます。つまり費用対効果と人材面、この2点が主な課題だといえるでしょう。

コストに関してはすぐに解決するのが難しい部分もあるかもしれません。しかしどの分野に投資をするのか、先を見据えてどこに注力していくのかなど、会社として再検討する余地はあるのではないでしょうか。

またそこに至るには、IT技術者の存在も欠かかせない要素といえます。こちらに関しては少しネックとなる問題があり、実は資金不足よりも大きな課題と考えられるかもしれません。今後国内で、IT人材の不足がすでに予想されていることをふまえると、それに伴いIT企業や大企業にIT技術者が取り込まれていく可能性が大といえるでしょう。

非IT系かつ小規模の製造業者がIT技術者を確保することは、より一層困難になるのではと懸念されています。

課題をどのように解決していくか

IT化の実現を妨げる2つの要因、費用・人材に関してそれぞれ対応策を考えてみたいと思います。

・初期導入コストを抑えるためのクラウドサービス活用

IT投資に関する費用の問題を考えると、今後小規模製造業がIT導入をしようとする際には、

初期導入コストをなるべく低くすることが重要になるでしょう。その解決策として例えばクラウドサービスの活用が挙げられます。

これは何より、初期導入費用が安いことが利点としてあります。月額数千円から利用可能なサービスもあり、導入に失敗したとしても撤退が容易なので試験的に取り入れてみても良いかもしれません。活用の仕方によっては、データ連携することで売上高データを生成して日々の決算が可能になるなど、業務効率化に繋がり高い費用対効果を得られることもあります。

またサーバなどの設備を自社で保有することが不要なので、IT技術者が常駐していなくても運用可能な点も大きなメリットと言えるでしょう。

・政府によるIT導入支援事業を利用して人材不足を解決

中小企業におけるIT化による労働力向上については、政府もさまざまな施策を実施しています。IT導入支援事業として政府は、中小企業・小規模事業者を対象として、生産性の底上げを目的としたIT導入支援を行なっています。ITツール導入時及び導入後の利活用に関するアドバイス、成果の確認からフォローアップまでサポートするというものです。

またスマートものづくり応援隊などの事業では、IT人材育成に取り組んでいます。製造現場の経験豊富な人材やIoT知見を有する人材などが指導者としてのスキルを習得するための研修を実施し、製造業などの中小企業・小規模事業者の現場に派遣することでIT化をサポートします。

まとめ

製造業において、今後生き残っていくためにはIoTへの取り組みが欠かせません。それを見据えたうえで小規模製造業では、まずはIT化に積極的に取り組むことです。現状の課題を元にIT投資で解決できることはないかなど考え、そのうえでITツールの導入や支援事業の活用といったステップで進めていかれると良いでしょう。