IoT(モノのインターネット)は現在、世界的に研究・開発、標準化に積極的に取り組まれています。その中でドイツは、官民連携プロジェクト「インダストリー4.0戦略」を行い、製造業のIoT化を通じた産業機械・設備、生産プロセスのネットワーク化などによる「第4次産業革命」の実現を目指しています。政府主導の企業へのIoT導入推進は、ドイツと日本の大きな違いです。IoT導入推進を目的とした国家施策「ミッテルシュタンド4.0」など、ドイツが製造業におけるIoT導入で日本より先行して成功している事情についてご紹介します。

ドイツの国家プロジェクト「インダストリー4.0」構想とは

ドイツ政府主導で進めている「インダストリー4.0」構想とは、直訳すると「第4次産業革命」のことです。これは、IoT導入推進を目指した取り組みでもあり、日本も含めて世界から大きな注目を集めました。

4次産業革命を起こす取り組みのコンセプトは「スマートファクトリー(考える工場)」です。この政策は2011年に発表され、現在でも進行しています。

ドイツの競争相手である日本はトヨタ生産方式を考案し、アメリカはリーン生産方式を取り入れることでドイツに対抗してきました。生産方式においてアメリカ、日本に先行されていることへの危機感が、ドイツのインダストリー4.0構想の背景にはあります。

インダストリー4.0の大きな成果の一つが、「工場のつながる化」です。これは、IoTAIの活用によって新たな産業構造へ変化させる中での一番の課題でもあります。

つながる化を実現するためにインダストリー4.0で行われた手法が管理シェルです。これは異種環境差を吸収することでデータを連携させる仕組みです。

管理シェルには機械や設備などのモノだけでなく、生産システムや注文書など、非物質的なものが含まれています。管理シェルは様々な技術分野や業種などを融合する役割も担っており、業種が異なる顧客ともネットワーク上で繋げることも可能です。

「つながる」というワードはインダストリー4.0の大きなテーマでもあり、管理シェルはこのテーマを実現するために重要な役割を果たしています。

インダストリー4.0とスマートファクトリー化の実現

製造業で加速しているスマートファクトリーは、インダストリー4.0構想によって注目されるきっかけとなった取り組みの一つです。

スマートファクトリーとは、工場内の機器や設備から作業データなどをIoTにより取得、収集し、データを分析・活用することで新たな付加価値を生み出せる工場のことです。

このスマートファクトリーが注目されるきっかけとなったインダストリー4.0では、国策としてドイツ政府が産官学の協力を得て、ICT(情報通信技術)を活用した新たなモノづくりを模索・推進しています。これにより、2012年末にはインダストリー4.0の理想像を記した「最終報告書」を提示。その後、2015年には具体的な技術やロードマップを記した「実践戦略」を提示し、世界中から注目を集めました。

スマートファクトリーなどの産業IoTは、「サイバーフィジカルシステム」が成果を出すための基本的な仕組みだとされています。情報をIoTにより収集し、クラウドなどで蓄積、それらのビッグデータを分析し、結果となる知見をフィールドバックして活用する流れが、この仕組みの大まかなシステムです。

これは、スマートファクトリーが理想とする「自律的で最適な生産を行う工場」を実現するために重要な仕組みです。

インダストリー4.0は、ドイツの製造業全体を徹底した効率化により高品質化し、国際競争力の向上を図っています。これを体現したものがスマートファクトリー化です。

スマートファクトリーにより、IoTを活用した「現状の見える化」を行い、生産性の向上と効率化の実現を可能にしました。また、エネルギーの最適化を同時に行えることにより、膨大なエネルギーを削減し、省エネに繋げることも可能です。

ドイツのインダストリー4.0による諸外国のIoT導入の成功事例

インダストリー4.0の取り組みは、長期戦略ではありますが、IoT導入の成功事例も多くあげられるようになりました。

最近の事例として注目されているものの一つが「マスカスタマイゼーションです。

マスカスタマイゼーションは大量生産を行いつつも低コストで一人一人の消費者に合わせた柔軟な製品をオーダーメイドして製造できる手法のことです。

ロボットを使用した標準化によりコストを抑え、設計情報をIoTの導入によりデジタル化し、特注品の製造を行います。これにより、カスタムした製品を標準の製品と同様の価格でユーザーに提供することが可能になりました。

ドイツ諸国や日本、アメリカ、中国などの工場もまた、効率の良い大量生産を行える「マスカスタマイゼーション」を実施しています。

イタリアの製造業では、IoTの導入に対しての遅れが国内で指摘されていました。それを受け、2017年~2019年に総額200億ユーロを上回る予算をIoT活用などの生産性向上に計上しています。イタリアのIoT技術の利用事例としてあげられるのが、食用プラスチック包装や容器製造を行う「シロップ・ジェマ」が、RFIDを使用した倉庫管理システムを導入したもの。

RFIDを製品の包装に取り付け、読み取ることですべての在庫を一括で管理できるようになりました。その結果、従来よりも作業工程の細かい管理や把握が可能になるだけでなく、生産性が20%も効率かされました。

ドイツの成功事例にみる日本や諸外国のゆくえ

諸外国や日本、アメリカよりもいち早く製造業にIoTを導入したドイツ。理想の姿の実現には長期的な戦略が必要なものの、この構想を自国の製造業に取り込む動きも珍しくありません。日本もその中の一国です。

工場のスマートファクトリー化を行う上で、中小企業がいかにしてIoT化を進めていくかは非常に重要です。インダストリー4.0の効果を高める最大の要因でしょう。

ドイツの成功事例を参考にし、製造業でどのようにしてIoTを導入するかを検討するのかが今後、日本でも重要な課題となっています。