「売上はあるのに、なぜか儲からない」
「正しく原価を把握できているか不安」
「原価管理機能をうまく活用できていない」
といった、中小製造業特有の問題点をIT化で促進することで『原価の見える化』を実現。各部門が管理する原価を正しく集計できるようになります。

コスト削減にも繋がるため、今迄進まなかった黒字化や利益確保の改善が見込めます。

本記事では、とある製造業社の悩みを事例にあげながら、『原価の見える化』について、詳しく解説していきます。

 

①製造業に多い原価が見えないという悩み

顧客から受注を受け、《材料の発注・製造・納品》全ての工程を社内で行い、自社製品を販売している「製造販売業社A(A社)」は、しっかり売上があるにも関わらず、売上総利益率が伸びないことが何年も続き、経営を圧迫していました。

A社を含め、多くの中小製造業では、何十年と原価の《管理・計算》方法を変更せず、1986年~1991年代の起こったバブル経済期と同様、少し大雑把な管理体質が今に続いています。

それが原因で正しい原価が見えず、正確な原価計算が行えないといった負の連鎖が続き、利益率の改善策を打ち出すこともできませんでした。

 

②なぜ原価は見えないのか

A社が抱えている問題点は、製造工程での(原価項目)の複雑な構成要素にあります。

《主材料・補助材料・人件費・外注費・減価償却費・水道光熱費・消耗品》など、さまざまな工程を経て製品が完成する製造業において、原価計算はとても複雑です。時間をかけて原価計算を行っても、製品やサービスの正しい製造原価がわからないと“売上は増えているがなぜか赤字”という事態が頻発しています。

 

・製造直接費(直接材料費・直接労務費・直接経費)は原価が見えやすい

製品を製造する際、直接的に発生する費用のことを『製造直接費』といいます。

主な項目として、製品製造に直接使われる材料「直接材料費」や、社内で製品製造の直接的な実務作業を行う従業者の給与を「直接労務費」、製品を作る上で必要となる部品やパーツなど直接製品に関わった費用「直接経費」などがあります。

直接的に目で見える『製造直接費』は、正しい原価を抽出しやすく管理が行いやすい原価項目と言えるでしょう。

 

・製造間接費(間接材料費・間接労務費・間接経費)は原価が見えづらい

製造直接費とは異なり、工場で作られた製品と直接的に結びつかない費用のことを『製造間接費』といいます。

製品に対して、明確な個数で表せられない材料(潤滑油や塗料など)は「間接材料費」に部類されるほか、生産管理・生産技術など製品に直接関わっていない従業者に発生する給与「間接労務費」や、製品や製造工程で、直接的な関わりを明確に判断しにくい経費「間接経費」などがあげられます。

『製造間接費』は正確に把握しにくい部分があり、製造直接費以上に、可視化しづらい特性があります。

A社の問題は、この製造間接費を正確に把握出来ていないまま、原価計算を行っていたことにあります。

 

③紙ベースの手書き日報の限界

当時のA社は、従業員が毎日手書きの作業日報を記録し、事務所に戻ってエクセルにまとめるという作業を行っていました。

A社の工場では約100名の従業員が働いているため、1ヶ月分の日報は100人×20日=2000枚になります。

また1日の段取りはその日によって異なり、複数製品に関わることもあれば、別工程に応援に行ったりすることもあるため、作業日報は複雑な内容となります。

手書き日報の場合、個性的な文字や走り書きなど個人のクセが現れるため、エクセル資料を作成する際、読み取り間違えが起こる可能性もありました。

そして、日報の集計だけで膨大な時間を要し、約1ヶ月は必須。実際原価が出るのが2ヶ月も後になっていたの実情です。

 

④タブレットを活用し、デジタル日報へ

そこでA社は、日報をデジタル化することによって、より正確な原価管理を行うことを目指しました。

 

・人件費の節約

タブレットを使用したデジタル日報は、《記録作業・集計作業》二つの作業が必要だった手書き日報の労働時間を大幅に削減することに成功します。
また、集計作業で必要だったエクセルの特別な知識は必要なくなったため、新たに事務員(エクセル担当者)を雇用する必要性がなくなり、人件費の節約にもなりました。

 

・自動集計で、入力ミスの軽減

ほとんどのデジタル日報システム(アプリ・ソフトなど)は、選択式で情報を自動集計し、計算まで行ってくれるため、入力ミスや計算ミスが大幅に軽減されます。

また、A社ではタブレットで作成した作業日報を生産管理システムに自動転送し、エクセル資料を自動で作成しています。

 

・地球に優しいペーパーレス化

作成日報の必要だった莫大な用紙が必要なくなり、温暖化対策の一環であるペーパーレス化が可能となりました。紙やペン代といった経費の節約にも繋がります。
また、大規模な保管のスペースも不要になり、事務所が広く活用することができるようになりました。

・最大のメリット

日報をデジタル化し、集計管理することで簡単に情報を検索することができます。
紙ベースの日報の場合、1つの情報を探すには《時間・労力・人材》が必要不可欠でした。パソコン、タブレットから瞬時に情報を検索できるデジタル日報は、正確な原価管理を行うための強い味方です。

A社では、タブレットを使用し作業日報をデジタル化することでタイムリーな《受注・生産状況・作業工程》が確認することができ、正確な原価管理が行えるようになりました。

 

⑤原価把握から適正見積への展開

A社のような製造業で利益を生み出すためには、製品を製造する際にかかったすべての原価項目を正確に把握し、適正な原価計算を行うことが最も重要です。

原価項目を正しく把握することで、科学的・統計的調査に基づいて算定された「標準原価」がより正確な数値として算出できるようになります。

正確な標準原価と、実際原価を算出し、差異を計算することができれば、無駄なコストがかかっている項目を細かく分析することができるためコスト削減に繋がります。

また製造業では必ず原価の見積もりを行います。この時算出された価格「見積原価」を使い、損益分岐点を求めて利益計画を行います。そのため、正確な見積原価を算出することで、正しく利益計画を行うことが可能となり、多くの利益を生み出すことに繋がります。

標準原価や見積原価、そして実際原価の計算は複雑で、時間も労力も非常にかかあります。A社が導入したように日報をデジタル化することによって、素早く正確な計算を行い原価管理を行うことが実現可能となります。

 

まとめ

A社の抱えている問題点は、多くの中小製造業が抱えている内容そのものです。《売上はある=利益が上がる》は、大きな間違いです。

今回、A社では製品原価の詳細を「見える化」することが、収益性の改善に必要であることがわかりました。

製品の売上高と製造原価の実績を正しく集計するための原価計算制度を導入することで、実際原価と実際利益の詳細が見えるようになり、利益を出すための改善策を打ち出すことが出来るようになります。

『原価の見える化』を行うことは、製造工程を的確に計画・管理することに繋がり、利益率を向上させる上での第一歩です。

まだ『原価の見える化』に取り組んでいないなら、これを機に導入の検討をしてみてはいかがでしょうか。