製造業における「モノのサービス化」とは、製品にサービスという概念を付加した新しい考え方です。全てのモノがインターネットに繋がるIoTは「サービス化」という考え方において欠かせない要素で、活用次第ではビジネスの幅を大きく広げる事が可能です。

本記事では、製造業を中心に、モノのサービス化(=IoT化)にどう対応しているか、サービス化が求められる背景やIoTとの関係、サービス化の現状や課題について説明します。

 

製造業で「モノのサービス化」が求められる背景

従来の製造業と顧客との関係は、「有形のモノを製造、提供して消費される」というものでした。近年のモノのサービス化によって、「有形のモノに加えて無形のサービスなどの『コト』を加えることで製造者と消費者が共に価値を共創していく」という変化があります。

 

製造業でモノのサービス化が求められる背景としては、主に2つの要素があると考えられます。1つ目は、製品のコモディティ化。技術向上によって、あらゆる会社で一定以上のクオリティが保障されるモノが製造される中、消費者にとって「どの会社のどの製品でも同じようなもの」という感覚になりつつあります。

そんな中、他社と差別化を図り生き残るためにはサービスやそれに伴う経験という付加価値が求められるのです。製造者による一方的な提供という構図から、消費者との相互関係で質の向上を目指すと考えても良いでしょう。

 

2つ目は、消費者が「モノを所有すること」にあまり価値を見いださなくなってきていることです。「シェアリングエコノミー」という考え方、それに基づいたあらゆるサービスの需要が高まる中、ただモノを製造して提供するだけでは製造業者として淘汰される未来が予想されます。

カーシェアリングやライドシェアリングといった交通手段、民泊やレンタルスペースなどの場所、さらには人の知識や経験までもがシェアの対象となっている時代です。「モノ」に対する執着やこだわりがなくなりつつある現在をふまえると、今後いかに別の価値を与えることができるかどうかが要となります。

 

IoTによってビジネスの幅を広げる製造業のサービス化

IoTによる製造業のサービス化の導入実績として好事例3つを紹介します。

 

①コマツの「KOMATRAX」

建設機械メーカーのコマツによる「KOMTRAX」は、建設機械に関する情報を遠隔で確認できるシステムです。機械の位置情報や稼働状況、省エネ運転状況やオイル交換時期に至るまで、顧客にとって有益な情報をインターネットを通じて提供します。このような「サービス化」が、顧客のリピート率の引き上げ、新たな有償保守契約の商品化へとつながっていきます。

 

②ブリヂストンの「エコバリューパック」

巨大タイヤメーカーのブリヂストンでは、適切なタイヤ交換時期を顧客に提案する「エコバリューパック」というサービスを行なっています。タイヤに取り付けたセンサーから、空気圧・温度・摩耗状況などを把握します。さらに走行中か保管中かといった稼働状況も認識可能で、これらのデータを分析し、タイヤ交換時期を提案する仕組みとなっています。

またタイヤ交換だけでなく、使用実態に合わせたタイヤやメンテナンスなどのプランを提案することも可能です。顧客にとっては、安全面だけでなく経費削減や業務効率化につながる点にもメリットがあります。

 

③クボタの「KSAS」

農機メーカーのクボタは、作業記録を管理するサービス「KSAS(ケーサス)」を提供しています。農機にセンサーを搭載することで、稼働状況や収量、うまみ成分比率といったデータをクラウドに集約します。顧客である農家は、これを分析することで経営に反映させることができます。

このような「営農コース」に加えて、無料で利用可能な「機械サポートコース」もあります。無料サービスでは、機械稼働の診断レポートやモニタリング、自身でも手軽に確認できる「マイ農機」などのサービスが利用できます。

 

製造業のサービス化の現状

消費者のニーズを把握しているものの、現状として製造業のサービス化がどこまで進んでいるのかというと、まだまだ浸透していないと感じる方が少なくないかもしれません。従来のビジネスモデルを変化させてサービス化が推進されているのは、どうしても大企業に目立ちます。

ヒト・モノ・カネが不足しがちな中小企業では取り組みづらいという問題もあるでしょう。また、社内にそのような知識やノウハウ、技術を持ち合わせた人材がいないのも理由として考えられます。

 

つまり製造業のサービス化には、コスト面でも人材面でも投資が欠かせないということです。大企業では当然、時代の流れに合わせたIT化には注力しており、サービス化のニーズに応えようとしています。ただそれでもやはり、ITを使った業務効率化やコスト削減に対する取り組みが大部分を占めるケースが多いのも現状としてあります。

 

サービス化によってビジネスモデルを変革していくためには、社内での理解や意識改革が必要なのと同時に、取引先である顧客による理解も求められます。サービス化の内容によっては取引内容が大きく変わることもあります。そのあたりも、積極的な導入の妨げとなる一因となり得るでしょう。

 

今後導入を検討する際の課題とは

製造業の「モノのサービス化」とは、製品単体を提供するだけでなく、ノウハウやデータを活用した無形の「コト」を価値として提供することです。製造業における従来のビジネスモデルとは大きく異なります。今後導入を検討する際に課題となるのは、社内におけるマネジメントの方向性や組織構造、そして取引関係にある会社間の関係性の変換です。

 

製造業のサービス化の形としては、新たなビジネスモデルとしてサービス業化を考えるケース、現状の製品にサービスという価値を加えるケースとがあります。いずれの場合でも、社内のコンセンサスをとるのは容易ではありません。サービス化のアイデアをもとに、各部署が相互協力をしなくては実現が難しいでしょう。

 

また社内での方向性が定まったとしても、顧客をどう納得させるのかという課題も出てきます。製品という「モノ」を提供するだけでなく、サービスという「コト」をプラスαすることで取引内容にも影響するはずです。どういったケースでも考えるべきことは、Win-Winな関係を描くことです。サービス化による顧客にとってのメリットについて明確にすることは必須です。

 

まとめ

IoTの必要性が謳われ、AI技術も進化し続ける中、製造業の「モノのサービス化」の流れはもはや止めることはできません。個人レベル、法人レベルでも顧客からのニーズの高まりは予想されます。今後「モノ」単体で生き残るのは難しく、ノウハウやサービスなどの「コト」による付加価値の存在が欠かせないといえます。

モノのサービス化とはつまり、ビジネスモデル変革の実現です。他社との差別化を図り業界で生き残るためには、IT投資を行ない、新たなビジネスモデルを作り上げることです。