世の中をますます便利にしてくれる仕組み「IoT」。企業でも自動化、効率化などの目的で導入されています。特にこれからの製造業は、作業の効率化やそれに伴う売り上げ向上、他社との差別化などにおいてIoTの活用は必要不可欠と言われています。
本記事では、小規模製造業にIoTを導入する方法や、導入事例についてご紹介し、IoT活用への手引きとなるように解説いたします。
製造業における「IoT」とは
「IoT」とは、もともと通信機能を持っていない「モノ」に、インターネットを接続して通信機能を持たせることをいいます。コンピューターやスマートフォンだけでなく、タブレットや家電製品などでも通信が可能です。スマホで家電製品の操作をしたり、写真や音声などを家電製品に認識させることで、相互に交換するような仕組みがあります。
中小製造業においても、さまざまな情報の電子データ化を進め、それらを有効活用することにより、技術革新や生産性向上、技能の伝承をよりスムーズに効率的に図ることができるといわれています。
たとえば工場において、機器にセンサーを取り付けて作業員の力加減をデータとして可視化することで、技術を他者や機械作業に引き継ぐことが容易になります。また、手書きや口伝の技術、作業手順等を電子データ化させることで、技術の向上や効率的な工場の運営を目指すことができます。製造業においてIoTを導入することは、中長期的にみれば高い確率で業務の効率化、売り上げ向上に繋がるでしょう。
小規模製造業におけるIoT事例
IoT導入は、大規模な工場やITに長けた人材がいる企業だけの話ではありません。中小企業をはじめとした人手が足りていない組織ほど、その有効性が確認できるでしょう。日常の作業や業務の不便な点を見直すことで、課題に応じたIoT活用が実現できます。
経済産業省『中小ものづくり企業IoT等活用事例集』より、導入事例を抜粋していくつかご紹介いたします。
作業員のためのマニュアル作成
東京都にあるフッ素樹脂加工・販売等を行うアースアテンド株式会社では、簡単マニュアル作成ツール「Teachme Biz」を導入しました。
それまで作業現場で使っていたマニュアルは、閲覧やマニュアル作成・更新に大きな手間がかかっており、適切なマニュアル作成・更新・閲覧が社内に浸透していないという課題がありました。
「Teachme Biz」を導入することにより、紙に文章や絵を描いてマニュアルを作成しなくても、タブレット端末を使って作業現場の写真を撮り、説明文を入力するだけでマニュアルの作成や更新ができるように。また、更新版のマニュアルを手作業で差し替える手間がなくなり、タブレット端末を使えば常に最新のマニュアルをいつでも閲覧できるようにもなりました。作業中の失敗事例なども写真を撮り簡単に共有できるようになり、作業の失敗を減らすことにもつながりました。
IoT化した熱処理炉を活用
長野県にある金属熱処理・コーティング処理等を行う岡谷熱処理工業株式会社では、夜間の稼働管理の負荷削減のためにIoT化した熱処理炉を活用しました。
熱処理炉を稼働させていてトラブルにより停止した場合、炉の異常を確認する作業が発生することになります。夜間の場合は無人で運転していますが、停止した際に管理者が状況を確認する負荷が甚大だという課題がありました。
その課題に対応すべく、同社では新規と既設の熱処理炉計5基を熱処理炉メーカーと連携してIoT化。スマートフォンで常に熱処理炉の細部にわたる稼働状況を監視でき、異常時緊急停止できる仕組みを構築することで、稼働確認のために夜間に工場に出向く負荷がなくなりました。また、夜間だけでなくいつでもどこからでも稼働状況を確認でき、熱処理炉の停止が可能なことは、管理者の負荷を大きく軽減させました。
切削加工の見積もり作業を省力化
埼玉県の精密機械加工として削り出し加工を行う株式会社栗原精機では、見積もりに関する業務負荷の軽減のため、見積もり作成ツール「Terminal Q」を導入しました。
切削加工では、加工工程がわからないと見積額の算出ができず、見積もり業務が経験のある社長等に集中することが課題としてありました。
「Terminal Q」では、見積もり依頼に添付される図面の情報等を項目別に入力していくと、自動で見積額が算定されるように。「Terminal Q」を導入することで、社長が頭の中で行なっていた見積もり作業を、他の従業員がPCの画面上で行うことが可能になりました。
生産管理システムの開発・外販
茨城県にある金属塗装を行うヒバラコーポレーション株式会社では、現場の管理者が把握したい「生産状況」や「工場進捗状況」を可視化する仕組みを構築しました。
同社では発注元の外注戦略があり、コストに見合う収益を得るための工夫が求められていました。また、金属塗装は職人技に依存する部分が多いため、技術を継承する若い人材を育てる必要がありましたが、若い人材の雇用が難しいという問題に直面していたのです。
そこで同社では、現場の生産状況や工程進捗状況を可視化し、自社の生産管理に役立てる仕組み「HIPAX」を自社開発・導入しました。現場作業のための各種情報が「HIPAX」で管理できるようになると、各工程での部品表のデータ入力作業等が不要になり、従業員の負荷軽減、生産性の向上に寄与。また、社内の生産状況や工程進捗状況を顧客に向けて表示できる仕組みを搭載し、顧客からの進捗状況の問い合わせ対応の負荷も大幅に軽減することができました。
この「HIPAX」は現在、自社向けの生産管理システムとして活用する他、実際に外販も実現しており、複数の会社に既に導入された実績があります。
まとめ
いくつかの事例をご紹介いたしましたが、上記はほんの一部です。紙資料の煩雑さ、人材不足や作業の非効率性など、各企業が従来の運営に関する課題に応じたIoT導入を行うことで、生産性向上や技術革新を目指すことができます。
また、自社での活用ノウハウをサービス化し、新規事業として外販、提供をはじめる中小企業も増えています。企業としての発展を遂げるためにもIoT導入について取り組んでみてはいかがでしょうか。