近年、多くの企業で本格的な導入が進められているIoT。なかでも生産性向上への対応が急務となっている国内の工場では、製造システムのIoT化が課題のひとつとされています。しかし、実際にIoT化を進める工場はそう多くなく、「メリットを良く理解していない」「実施方法が分からない」という理由から導入を足踏みする企業も少なくありません。

そこで本記事では、IoT化が進められる工場において注目度が高まる「スマート工場」とは何か、基礎知識やメリット、導入に向けた課題についてお話しします。

 

IoT活用でつくる「スマート工場」とは?

スマート工場とは、工場内のあらゆる機器にIoTやAIなどを導入し、インターネットと相互接続することで生産性・品質向上などを図る先進的な工場のこと。IoTの分野においては、工場内にあるモノ(生産ライン・製造機器など)をネットワークへ接続することで、より効率的な生産体制を構築することを目的としています。

このスマート工場が世界で注目され始めたきっかけは、ドイツ政府が推進するプロジェクト「インダストリー4.0」にあります。モノづくりにおいてインターネットを活用するというい新たな戦略が関心を呼び、日本企業でも導入が拡大しています。

IoTを用いてスマート化した工場では、製造にかかる各工程のデータを一元管理できるため、受注情報をもとに必要な数だけを製造したり、在庫を最小限に抑えるなどの「製造プロセスの最適化」に大きな効果があるとされています。

 

なぜIoTによる「スマート工場」化が必要なのか

IoTを導入したスマート工場化が必要とされる背景には、加速する人手不足や、企業のグローバル化など関係しています。

2018年、経済産業省が発表した資料によると、製造業における人手不足は大企業・中小企業の94%以上が顕在化しており、その内の32%の企業は「ビジネスにも影響が出ている」と回答する結果に。日本国内の少子化が進み生産性人口が減少するなか、製造業における人材確保がさらに厳しくなっていることが分かります。とくに特定の製造に特化した「技術人材」の確保は難しく、中小企業の約60%が「人材確保に課題がある」と答えています。

(出典:経済産業省 製造産業局「製造業における人手不足の現状および外国人材の活用について」)

こうした背景を受け、多くの工場では「各工程に必要な人員が確保できない」「利益確保のためのラインが動かせない」などの問題が起きています。こうした問題への解決策として、IoTを活用した生産工程の合理化が求められています。

機械にIoTを導入することで、無人化および生産ラインの自動化が実現するとともに、技術人材のノウハウを機械へと移行できることから、人手不足改善・技能継承にも役立てることが可能です。

また、グローバル化が進む製造業では、各工場や設計部門などとの「データ共有」が不可欠です。IoTを活用することで、設計図や製造工程をデジタルデータとして共有できるため、生産計画や業務連携をスムーズに行うことが可能です。

これらIoTの活用は、人材確保をはじめ、設計プロセスの効率化、生産性向上などの継続的な利益につながることから、製造業において必須の取り組みといえるでしょう。

 

IoTでスマート工場を実現すると、どんなメリットがある?

工場のあらゆる面で有効とされるIoT活用ですが、スマート工場を実現することでどのような効果が得られるのでしょうか?ここでは、主な3つのメリットについて紹介します。

 

「見える化」により、効率的な生産ができる

工場をIoT化することで、製造設備の稼働状況や、生産性の低い作業などのデータをリアルタイムで「見える化」できます。これにより、製造工程のボトルネックを把握し、稼働効率化に向けた調整対応ができるようになります。さらには、見える化したデータを分析して、生産性向上に向けたフィードバックを継続的に行うことも可能。無駄な工程をなくし、問題に合った改善策を講ずることで、工場全体の効率化につながるでしょう。なお、見える化できるデータには、設備運転や動作データも含まれるため、システム異常や故障をいち早く検知できるというメリットもあります。

 

作業の省力化によってコストを削減できる

設備をIoT化することで、ルーティン化していた単純作業や、膨大な人員や時間を要していた重労働を省力化できるといったメリットがあります。設計から製造までのあらゆる工数を減らすことで、生産性向上だけでなく人件費の削減にもつながるでしょう。

また、IoT化によって製造過程に起こり得る人的ミスを防止できるため、原料コストを無駄にすることなく、より品質の高い製品を作ることができます。

 

柔軟な生産体制が構築できる

製造業では、多様化する消費者ニーズに対応するための「柔軟性」が求められます。そこで多くの工場で課題とされているのが「変種変量生産」への対応です。しかし、ひとつの工場で多くの製品に対応することは難しく、すでに導入されている機器や生産ラインを取り換えなければならないケースも多くあります。

こうした問題を解消するには、IoTを活用した工場のスマート化が必須です。生産現場にIoTを導入することで、設計から製造、販売に至るまでの生産プロセスをデジタルデータ化することが可能。工場設備とそれらのデータをつなぐことで、ニーズを踏まえた自律的な変種変量生産が可能となります。柔軟な生産体制の構築には、IoTによる機械とネットワークのつながりが不可欠といえるでしょう。

 

工場におけるIoT導入への3つの課題

スマート工場を実現するにあたり、IoT導入前にいくつか理解しておきたい課題があります。主な課題には、次のようなことが挙げられます。

 

IoT活用の前提となるネットワークシステムが構築できない

IoTを活用するには、工場内にある制御システムや生産管理システム、情報系システムなどとデータ連携ができるネットワークシステムの構築が不可欠です。しかし、これらのシステムは、同じ工場内でも異なるシステムが導入されていることがあるため、他のネットワークシステムと相互接続できない可能性があります。

この問題を解消するには、さまざまネットワークシステムの構築段階から見直す必要があるため、一朝一夕に実現できるものではありません。そして、あらゆる機器やシステムをインターネット回線につなぐ必要があるため、セキュリティ対策の面でも強化が必要です。

 

IoTによって収集したデータを活用する方法が分からない

次に、IoT化によってデータ収集・分析ができる環境が整ったものの、これらのデータを活用できるノウハウがないというケースも少なくありません。「どのようなデータが必要なのか」「データから何を分析するのか」を正しく見極めて取り組まなければ、返ってコストがかさんでしまう原因にもなります。自社で運営が難しい場合には、IoT活用をサポートしてもらえるサービスを利用するのも1つの手です。

 

導入コストが高額になりやすい

最後は、やはりコストの問題が挙げられます。IoT機器の普及が拡大しているとはいえ、工場内のシステムを一度に刷新することは、高額なコストがかかります。また、データ分析などを他社に依頼する場合にはさらにコストの負担が大きくなるため、経営資金が確保できない中小企業などでは導入が難しいケースがあります。

 

長期的な戦略が成功に導く

IoT活用により、これまでモノとして利用していた工場内の機器や設備が、デジタルなネットワークでつなげることができます。データ収集・分析による生産性向上をはじめ、人材確保、変種変量生産への対応、コスト削減などのさまざまな効果が期待できます。

一方で、導入時には既存システムとのデータ連携や、各部署でのネットワークシステム構築が不可欠です。工場によって必要なIoT技術は異なるため、自社が直面している課題に応じて、適切な技術を採用することが大切です。

また、導入には高額なコストがかかる可能性があるため、長期的な戦略を立てて導入することを忘れてはいけません。自社にノウハウを持つ担当者が在籍していない場合には、工場のIoT化を専門会社へ依頼することも検討しましょう。